顔面の変形や歯並びの異常に悩み苦しんでいる患者さんの、これらを改善したときの喜びは他人にははかり知れないものがあります。顔はその人の人柄や知性、感情、健康状態などを反映しているともいわれ、とくに顎変形症の患者さんは他人から顔を見られることに対し強いコンプレックスを持っています。最近の顔やスマイルへの関心の高まりとともに、歯並びや顎変形に対する関心も高まり、今後顎変形症の治療を希望する人はますます増加するでしょう。※1
 それでは、美しい顔はどうすればGetできるのでしょうか?
 人は顔のバランスやプロポーションが調和した顔を美しい顔と認識します(写真下)。顎変形症の患者さんは、この調和が崩れている場合がほとんどです。
 では、顔のバランスの乱れはどこから生じるのでしょうか。歯科領域から考えますと、もっとも影響を与えているのが上・下顎骨のバランスの崩れです。上・下顎骨の成長・発育に異常が生じると当然上・下顎のアンバランスを生じ、結果として顔面の不調和を引き起します。上・下顎骨のアンバランスは、遺伝的な原因が考えられる場合もありますが、不正咬合が顎の変形を招いている場合が多くみられます。
 この原因として不良習癖(口呼吸、異常嚥下癖)や、歯と顎の大きさの不調和をともなう叢生、小帯付着異常(舌小帯、上唇小帯)などによる形態および機能異常が一般的に考えられます。
 このような患者さんの場合、成長期前や少なくとも成長期に矯正歯科治療を行うことにより正常な成長・発育を回復し、バランスのとれた上・下顎関係を獲得することができ、正しい咬合と美しい顔をGetすることができます。また、早期治療は顎変形症への移行を予防することにもなります。


 しかしながら、不幸にして顎変形症を引き起こした場合、どうしたら美しい顔をGetできるのでしょうか? まず正しい診断と治療方針を立てる必要があります。通常、このような症例に対しては三次元表示CTやモデルサージェリーなどを応用して立体的な顎顔面形態の異常を診断し、各症例に適応した的確な外科矯正治療を行います。
 顎変形症の場合、上・下顎骨を骨切りにより正常な位置に移動させる手術を行いますが、不正咬合の状態で手術をしても美しい顔や正しい咬合は獲得できません。顎変形症では、不正位置にある顎骨に対して歯の代償性適応dental compensation 、すなわち歯の不正位置への移動が生じていますので、上・下顎骨に対し上下前歯や臼歯をそれぞれ正しい位置に戻すために手術前の矯正歯科治療が必要となります。叢生やSpee彎曲の改善、空隙の閉鎖、前歯・臼歯の歯軸のコントロール、上・下歯列弓幅径のコーディネーションや咬合干渉の改善などを行います。各ステップごとに診断用模型を作成し上下歯牙の嵌合位が中心咬合位となること、両側臼歯部にcentric stopが得られていること、下顎運動時のガイダンスが十分得られていることなどを確認した後外科手術を行います。術前矯正治療期間は平均1年半程度ですが、症例によっては長くかかることもあります。
 外科手術は顔面に皮膚切開をすることなく口腔内から行ない、上・下顎骨を三次元的に安全に確実に移動することが可能です。入院期間は10日から2週間程度ですが、症例によってはもっと長くかかる場合があります。

 手術後に半年から1年程度術後矯正治療期間が必要です。咬合の緊密化を図るとともに、筋肉や粘膜などの軟組織の新しい環境への順応を促し、悪習癖の改善を図り、後戻りを極力抑制するための期間です。その後、さらに保定期間が必要です。
 それでは症例を見てみましょう。初診時と術後の顔面写真(写真2、3)と口腔内写真です(写真4、5)。初診時と比べると中顔面部の陥凹感とオトガイ部の突出感が改善され、また顔面の垂直的なプロポーションも改善され、調和のとれた美しい顔が獲得されています。咬合関係をみますと嵌合位と中心位が一致し安定した咬合が得られています。さらに、心理的な変化をY-G性格検査で比較しますと非社交的、攻撃的から社交的で非常に安定した心理状態に変化しています(写真上)。
 このように顎・顔面の変形は、矯正歯科と外科矯正治療の併用により形態的改善が得られ美しい顔がGetされるばかりでなく機能的にも改善され、さらに心理的な変化からもわかりますように、その人の内面的な美しさをも醸し出すことから、手術後より豊かな人生が送れるものと信じています。

 

用語解説

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このような最近の情勢の変化に対応するため、厚生労働省は外科手術を必要とする著しい顎変形症に対しては更生医療とし保険適用を認めており、患者さんにとっては治療を受けやすい環境ができています。当院は更生(育成)医療指定機関として、口唇裂口蓋裂の矯正歯科治療とともに、顎変形症の外科手術前・後の矯正歯科治療も保険適用が認められています。

◆異常嚥下癖
 舌を前方へ突出させ下唇と接触を保ちながら口腔内の陰圧を作りながら嚥下を行う動作で、乳児の哺乳時にみられるものです。3歳以降〜成長期にいたるまでこの動作が続くと上下顎前突や開咬が発現する可能性があります。

◆舌小帯付着異常(舌小帯強直症)
 舌小帯は、舌と顎骨を結ぶ線維性の組織であり舌の動きを調節する役割を持っています。小帯が前方に付着したままであったり、肥大している場合、舌の前方や上下への動きが阻害され発音や咀嚼障害を惹起したり、顎骨の成長・発育に影響をおよぼす可能性もある。上顎前突、下顎前突や開咬が発現する可能性があります。

◆歯の代償性適応(dental compensation)
 顎骨の不正に対する歯の不正位置への移動のことです。たとえば、骨格性下顎前突症では、上顎に対し上顎前歯は唇側傾斜し、下顎前歯は下顎に対し舌側へ傾斜する場合が多い。

◆Y・G性格検査
 手術前後の心理変化を把握するためにY・G性格検査を行っています。本検査では、情緒の安定性や社会的適応性、活動性や主導性など患者さんの心理的な変化を定量的に把握することが可能であります。


伊東隆利院長
入院設備のある有床の歯科医院の院長として、地域医療に尽力している。救急患者の24時間対応をはじめ、顎顔面外傷、顎変形症に対する手術、インプラント手術を行うとともに、老人病院や救急病院への往診、障害者への歯科診療の充実など、地域住民の立場に立った医療サービスを推進している。

伊東隆三センター長
福岡歯科大学歯科矯正学講座の助教授や、米国カリフォルニア州立大学(UCLA)歯学部矯正学講座の客員教授として、長年にわたって研究・教育・臨床に当たってきた。2001年より、同センター長に就任し、地域医療に貢献。